
謎解きを中心にした本格ミステリーは作者が読者に出題する知的ゲームの小説であるからフェアプレイに徹する必要がある。そんな信念から小説を書く上でルールを自分に課した作家たちがいる。特に有名なのはヴァン・ダインの「二十則」とロナルド・ノックスの「十戒」である。
「探偵小説作法の二十則」 ヴァン・ダイン (1928)
- 事件の謎を解く手がかりは、すべて明白に記述されていなくてはならない。
- 作中の犯人がしかけるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
- 不必要なラブロマンスを付け加えて、知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出すことであり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
- 探偵自身、あるいは捜査員の一人が、突然、犯人に急変してはいけない。
- 理論的な推理によって、犯人を決定しなければならない。
- 偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
- 探偵小説には必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって、事件を解決しなければならない。
- 長編小説には、死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
- 占いとか心霊術、読心術などで犯罪の真実を告げてはならない。探偵役は一人が望ましい。一つの事件に、複数に探偵が協力し合って解決するのは、推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。
- 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章で、ひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
- 端役の使用人などを犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物がおかす犯罪なら、わざわざ本に書くほどのことはない。
- いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。
- 探偵小説では、秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
- 殺人の方法と、それを探偵する手段は、合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。たとえば毒殺の場合なら未知の毒薬を使ってはいけない。
- 事件の真相をとく手がかりは最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、すべて読者に提示しておかなければならない。
- 余計な情景描写や、脇道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。
- プロの犯罪者を犯人にするのは避ける事。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
- 事件の結末を事故死とか自殺で片づけてはいけない。
- 犯罪の動機は個人的なものが良い。
- 次のような手法は避けるべきである
- 犯行現場に残された煙草の吸い殻と、容疑者の吸っている煙草を比べて犯人を決める方法。
- インチキな降霊術で犯人をおどして自供させる。
- 指紋偽造のトリック。
- 替え玉によるアリバイ工作。
- 番犬が吠えなかったので犯人はその犬になじみのある者だったとわかる。
- 双子の替え玉トリック。
- 皮下注射や、即死する毒薬の使用。(?)
- 警官が踏み込んだ後での密室殺人。(?)
- 言葉の連想で犯人を指摘すること。
- 土壇場で探偵があっさり暗号を解読して謎を解く方法。